「カウボーイビバップ」などで知られる渡辺信一郎監督と、「ジョン・ウィック」で話題のチャド・スタエルスキがタッグを組んだ超注目作『LAZARUS ラザロ』。
本作の制作現場には、アメリカAdult Swimからのオファー、国際的クリエイターとの連携、徹底した音響設計など、知れば驚く“裏側”のエピソードが満載です。
今回は、最新インタビューやイベントで明かされた制作秘話をまとめ、ファン必見の裏舞台を徹底解説します。
- アニメ誕生のきっかけとなった海外からの依頼
- スタエルスキ監督との異色コラボによる演出秘話
- 音楽・美術・演技に込められた創作陣のこだわり
1. 海外からのオファーがスタート地点
『LAZARUS ラザロ』のプロジェクトが始動したきっかけは、アメリカのアニメ枠「Adult Swim」からの直々のオファーでした。
近年、アダルトスイムは『ブレードランナー:ブラックロータス』など、本格的なアニメ作品の制作に積極的で、今回は「大人向けのダークSFアクションを作ってほしい」と渡辺監督に声をかけたのが出発点です。
これは日本発ではなく、“海外からの企画提案”としては異例のパターンでした。
渡辺信一郎監督はインタビューで、「タイミングと直感で、これはやるべきだと思った」と語っています。
「もし今この作品を作らなければ、二度とこういう形ではやれないだろう」という感覚があったようで、そこから一気に構想を練り始めたと言います。
この直感こそが、数々の名作を生み出してきた渡辺監督らしい決断です。
本作が描くテーマには、現代の“オピオイド問題”や“超監視社会”といったアメリカ社会の暗部が色濃く反映されています。
それはまさに、海外オーダーだからこそ可能だった視点とも言えるでしょう。
こうして『LAZARUS ラザロ』は、“国境を越えた企画力”と“渡辺監督の直感”が交差する形で誕生したのです。
2. 圧巻のアクション設計:Watanabe × Stahelski
『LAZARUS ラザロ』のアクションシーンは、これまでのアニメでは見られなかった“映画的な重量感と滑らかさ”を実現しています。
その秘密は、あの『ジョン・ウィック』シリーズで知られるチャド・スタエルスキ監督との共同演出にあります。
ハリウッド屈指のスタント出身監督が、アニメに本格的に関わるという試みは、極めて珍しいケースです。
スタエルスキ監督はインタビューで、「アニメーションにアクション演出を適用するのは、今までで一番“楽しい仕事”だった」と語っています。
彼は、自らのスタントチームと渡辺監督の制作陣との連携で、動きの重み、タイミング、空間設計までを緻密にシミュレートし、シーンに落とし込んだのです。
アニメーターたちは、そのリアルな動きを絵に置き換えるという、極限の再現作業を行いました。
その結果として生まれたのが、まるでライブアクション映画のような緊張感と、アニメならではの表現美が融合した唯一無二のアクションです。
戦闘や追跡シーンでは、重力や物理の描写にリアリティがありながらも、視覚的なダイナミズムを一切損なっていません。
まさに、「ジョン・ウィック×アニメーション」という夢のコラボが形になった瞬間だと言えるでしょう。
3. 音響と音楽にかけた“狂気のこだわり”
『LAZARUS ラザロ』の世界観を構成する上で、音響と音楽は単なる“演出”ではなく、“物語の一部”として存在しています。
渡辺監督作品に共通するテーマですが、本作では特にその「音」に対する執念とも言えるこだわりが光っています。
音の設計には、ハリウッドの大作映画でも活躍するFormosa Groupが参加し、効果音の粒子レベルまで精密にコントロールされました。
銃声、呼吸音、都市のざわめき──そうしたすべての環境音は、一音一音が設計された“選ばれた音”です。
監督は収録時に「音が“風景”になっているか」を常に問い、映像だけでなく音による没入感にも異常なまでの注意を払ったと言います。
その緻密さが、視聴者を物語世界に引き込む要因の一つとなっています。
音楽面でも、ジャンルを超えた豪華アーティストたちが参加しています。
ジャズサックスの鬼才Kamasi Washington、エレクトロニカの重鎮Bonobo、そしてアンビエント/クラブシーンの実力派Floating Points。
この異色の組み合わせが、近未来と精神世界を繋ぐ“音楽的レイヤー”を構築しています。
特にボノボが語ったように、ある楽曲のルーツは「1920年代のブルース」にもあるとのこと。
100年近くの音楽史を再構成したスコアは、作品の精神的・歴史的深度をより一層高めているのです。
映像だけでなく“音”にも耳を澄ますことで、『LAZARUS ラザロ』は何倍にも味わえる作品に昇華していると言えるでしょう。
4. 多国籍スタッフが生む“リアルに息づく未来”
『LAZARUS ラザロ』の世界観は、アクションや音楽だけでなく、圧倒的なビジュアルディテールによって支えられています。
その舞台となる「バビロニア・シティ」は、文化・人種・建築様式が混在した多層都市として描かれ、観る者を強烈なリアリティへと誘います。
この“未来都市の説得力”の裏には、国境を超えて集まったクリエイターたちの力が存在しています。
本作の美術・背景・CG設計には、アメリカ、ヨーロッパ、アジアなど、各国のトップレベルのアニメーターやアートディレクターが多数参加。
それぞれが持ち寄る視点や生活感が、単一の文化圏では生み出せない“雑多でリアルな未来”を創り出しています。
この点において、『LAZARUS ラザロ』はグローバル制作の成功例とも言えるでしょう。
特に、建物や看板、光源処理といった細部の描写には、一つ一つのパーツに文化的文脈が宿っています。
どの風景にも「この都市はどこかに実在するのでは?」と思わせるほどの“暮らしの温度”が込められているのです。
この多国籍感こそが、物語にリアリティと没入感をもたらし、観る者に“生きている未来”を信じさせる原動力となっています。
渡辺監督自身も「都市とは人種と価値観の交差点であり、矛盾の中にリアルが宿る」と語っており、理想郷ではなく“混沌の美学”が本作の根底にあることが明確です。
多文化社会の今だからこそ、この未来都市の描写は観る者の胸に響くのです。
5. キャストと演出:自然体で命を吹き込む
『LAZARUS ラザロ』のもう一つの大きな魅力は、キャストの演技と、それを引き出す演出にあります。
本作では、派手なセリフ回しや感情表現よりも、“自然体の演技”が重視されており、それが物語のリアリティをより強く支えています。
この方針は、渡辺信一郎監督ならではの演出哲学に根ざしています。
監督はかねてより、「声優に演技をさせるのではなく、キャラクターとして“そこにいる”ように喋ってほしい」というスタンスを持っています。
『LAZARUS ラザロ』でもその姿勢は徹底され、NGは極力出さず、“一発録り”の緊張感を大切にしているとのことです。
これは、言葉の間合いや呼吸のニュアンスを自然に保つための演出技法でもあります。
また、本作においては、キャストの声が演出設計に影響を与えているケースも多々見られます。
アニメーション制作の工程中に、収録された声の“トーンやリズム”に合わせてキャラの表情や動きが調整されたシーンも存在するとのこと。
これは、演者とアニメーターが“演出を共有している”という、極めて密な制作スタイルです。
さらに、渡辺監督は過去にタッグを組んだスタッフや声優を多数起用しています。
それにより、演出意図の共有や信頼関係が深く、キャストの持つ表現力が作品にそのまま息づいているのです。
これらすべてが合わさることで、『LAZARUS ラザロ』のキャラクターたちは“生きている”と感じさせてくれるのです。
6. まとめ:「集大成だからこそ見逃せない意図」
『LAZARUS ラザロ』は、渡辺信一郎監督にとってキャリアの集大成とも言える野心的な作品です。
その制作背景には、海外からの挑戦的オファー、アクションと音楽の国際的融合、そして多国籍なスタッフによる協業といった、“グローバル時代のアニメ制作”の最前線が詰まっています。
一見スタイリッシュなアクションアニメでありながら、その裏側には時代の問いと芸術的探求が隠されているのです。
演出、音響、美術、脚本――どの要素も手抜きがなく、各分野のプロフェッショナルが本気で向き合った熱量が映像のすみずみに宿っています。
そして、その熱量を受け取ることで、視聴者自身もまた、“創作とは何か”という問いに直面することになるでしょう。
『LAZARUS ラザロ』を深く味わうには、ただ観るだけでなく、その制作の背景に耳を傾けることが不可欠です。
この作品は、渡辺監督が「今、世界に対して何を語るべきか」を問うための場であり、同時に、未来のアニメーション制作に対する強烈な提案でもあるのです。
制作秘話を知れば知るほど、その一挙手一投足に込められた想いの深さが見えてきます。
『LAZARUS ラザロ』は、単なる娯楽を超えた“創造とメッセージの結晶”なのです。
- Adult Swimからの国際オファーで企画始動
- ジョン・ウィック監督がアニメ演出に挑戦
- 音響・音楽は世界的アーティストが参加
- 多国籍チームによるリアルな都市設計
- 自然体の演技と一発録りにこだわる演出
- 渡辺監督の集大成として込められた意図
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